高坂
小山さんが、お店にこの立地を選ばれたのはどうしてですか?

小山
いま成功している店舗には、わりと辺鄙な場所にある店も多いと気づいたんです。利便性には遠いけど「心の安らぎ」に近い場所なんですね。便利なところって、意外と心の癒しに遠い気がする。 僕も、非日常的なこの立地だからこそ、予想外の楽しさを表現できると思ったんです。最初は大変でしたけど(笑)でもわざわざ来て下さるお客様が求めることは何かを考えて、大事な部分を落とさずにやれば、味以外の広がり、感動させる何かまでお土産に持って帰ってもらえると思うんです。それってとても豊かな気がする。だからこそ、ここに向かう道のり、商品、情報、全てとても大切なことだと、責任を感じています。それにね、僕にとっては、子供のときに遊んだりいたずらしたり・・・という自分の植生も浮かんでくる、そういう立地なんです。

高坂
なるほど。僕はね、成功する人というのは、それまで生きてきたものの蓄積だと思うんですよ。それをどう出すのかにかかっている。

小山
そうですね。確かに、その生きてきた蓄積をうまく利用できる人間ではないかな。 技術も知識も、なんでも1から10まで全て覚えて使う、というのではなくて、その都度必要なものを経験に応じて引き出しから出し入れできるという力。

高坂

食の世界でも、そういう力を持った人が中心になってもらって、本当にいいものを見抜ける力、そして、どういう人が判断すれば安心、安全というのか、という部分を消費者に教えてあげるべきだと思うんですよね。

高坂
ところで、ケーキというとてもシンプルな材料の組み合わせのなかに、原材料となる食材の持つ力や、それによる味の変化は感じますか?

小山
大きく感じますね。僕は小麦粉も用途によって使い分けます。たとえばカスタードにはこれ、この生地にはこれ、とか。考えれば考えるほど、きりがない発見の連続です。今までの自分のデータを全部塗り替えるくらい、難しくかつ面白いものですよ。

高坂
性質の安定している粉などと違って、農産物はどうなんだろう。常に一定していなくて、管理さえ良ければいいというものでもない。

小山
「ええ。食卓を囲むというのは、単なる行為を超えて、そこに大切なコミュニケーションが生まれるし、何より食べる事について大人と子供が一緒に考える場が自然と与えられる。それって食のありかたの基本だと思うんです。」

高坂
ここでもまた、子の反応から親が学ぶことが多いですしね。
西川 農産物は難しいですね。その場その場のどういうもので対応していくか、それはもうピンからキリ。それは値段や見た目のピンキリではなく、そのとき作る物に対して、相応しいかそうでないかを見極められるかどうかに大きく差が出るんです。先ほどの話のとおり、これは作る人間の判断で決まってきます。

高坂
そういったことを学ぶ意味は、確かにあるのかもしれませんが、西川さんは、農産物のことに加えて生産者のことまで知る必要ってあると思いますか。
西川 それは大いにありますよ。素材を作っている人の思いや背景を見ると、こちらも作るときのイメージが変わってくる。大事に育てている姿を知れば、当然思い入れも変わるし、生産者の気持ちを生かしたくなる。なんというか不思議な、第三のエネルギーを感じます。それが、最終的には隠し味になることもある。

高坂
我々の時代は、生産者の姿って、もっとすんなりと思い浮かべられる素地がありましたよね。どんな人がどんな風に毎日畑を耕しているかという姿が身近にあった。一方、今ではそれが失われていて、「食育」といってもそんなことが全く伝え切れてない。でも本当は、物を作る人間の意識や、どんな人生の課程においてそれが生まれてくるのか、その作り手の「人間のレシピ」を知るべきなんだよね。それがない人間には何も出来ないはずだし、その人のもっと別の面もわかるよね。安心・安全とは、そうやって相手を深く知ることだと思う。そこをもっと消費者にも若い人にも勉強して欲しいし、行動をもって示したい。

小山
それ、めちゃいい言葉ですね、「人間のレシピ」。我々職人にとっても、商品は自分から生まれた、分身ですからね。西洋ではそういう哲学が当たり前にある。

高坂
それをもっと知らせるべきなんですよね。有名な料理人や職人にしても、ただテレビに出る人になる、のではなく、その人の生きてきた過程を知らせるべき。 その積み重ねで今があるんだということを。彼らはお金儲けを教えられて育ってきたわけではなく、小さな頃は、他人に迷惑をかけるなとか、遅くまで外で遊ぶな、 と怒られたり、それでも遊びたかったりした、幼少期の頃に蓄積されたものが、色々とあるんだよね。

小山
こないだ、音楽家の佐渡裕さんが来られて、カフェに面した庭を見て、「君のルーツは何?」と聞かれたんです。 実は僕は京都出身で、子供の頃は長方形の路地の中で、昔からの遊びもしたし、新しい遊びも考えてきた。 それで「僕のルーツは子供の頃の路地遊びです」と答えたら、佐渡さんも「僕も、5年前から、自分のクリエイティブの原点の発祥は路地遊びだと思ってたんだよ、奇遇だね」と言われたんです。 近所の路地で遊ぶってことは、自分なりに責任を逃れられない空間なんですね。隣の家の鉢を割ってしまったら自分で誤るしかないし、それでもそこで遊ぶしかない。 ある意味命がけなんです(笑)最近佐渡さんもね、それを考えるようになったそうです。

西川 佐渡さんも、人を喜ばせるのが好きな方です。

高坂
そして相手を深く知るには、モバイルの世界では無理。このイベントでそれを感じて欲しいですね。安心・安全の本当のすがたを、志ある人間たちで証明して、それを知ってもらいたい。だから僕は「日本の原風景」で対抗したいんです。山や川や自然がある風景。それがなかったら自分はないと思うし、それが自分の正義感もはぐくんでくれた。そういう、幼少時代に過ごした環境や思い出を残したいし、大切にしたい。次世代のためというより、自分はそういう日本を大事にしたいんです。それを伝えたいし、勝負したい。それに目覚める人間が集まって欲しいです。

西川 ほんとうに、そうやって食の世界を動かして、意識を変えられるといいな。

高坂
そこから、次世代に残す何かを伝えられたら素晴らしいですね。

高坂
【「作るということ」を知ることこそが、食育」】

小山
「僕が一番うれしいのは、お客さんが「元気になった」といってくれることですね。ますます元気にしたいという気持ちが、自分を奮い立たせてくれます。

西川 そうですね、元気になってもらうこともだし、自分が作ったものを通じていかに楽しんでもらうかそれがお客さんの気持ちを動かせて、いい思い出に繋げられたらいいなと思っています。

高坂
今の子供には、なんでもありすぎるし、何でも手に入ると思っているでしょう。物のありがたみを感じにくい世の中になりすぎている。
西川 だからこそ、子供には、そういうものではない思い出になるものを作ってあげないといけない。親と子でそれを感じたリできるような。

高坂
子供たちが、何かそういうものを食べたときに、社会のなかで、自分なら何が出来るのか、を考えるようになって欲しいし、考える時間を作らないといけない。ただおいしい、まずい、という評論家のようになるのではなく、「作る」ということが、どれくらい壮大なことなのか、「作る」ということが何なのかを知ることこそが、食育だと思います。たくさんの経験をつんできた職人の姿から、深く知るとういうことを学んで欲しい。そこで、大切なことを知らない自分にハッとする子供になってほしいですね。

高坂
志のある人が集まって、どんどんそのためのイベントをしたいですね。もっともっと深く知って欲しい。生きていくうえでのリスクも、謙虚さの意味も含めて調整できるような人間になってもらえるような。

西川 そうすると当然、こうすると人が喜ぶのではないかということも見える。こうしたほうがいいと直感的に分かる。佐渡さんもそうです。音楽の世界も一緒。あれだけのいいコンサートが終わったあと、お客さんのために一時間ずっとにこやかにサイン会をしている。あの謙虚さとサービス精神はすごい。

小山 トップの人間を見るということは、とても大事。たとえば、日本で何本の指に入るという職人に触れることにどれだけ意味があるか。パン職人が西川さんにパンを教わるとか、その釜の出し入れを身近に見ることによって、明日からの自分の目標が手に入る。よりそれが具体的になる。

高坂 横に居て学べるというのは素晴らしいね。そこから生まれることはすごく大きいし励みになる。今日何を目指すのか。そして次へ次へ、という積み重ねの基になるね。

小山 僕は、上に立つものとして、指導する立場の人間が伝える大切なことのひとつは、損得だと思います。お金の損得ではなくて、「この人といたら得るものがある」、という意識を与えられるのも、経営者として理想です。僕はコンテストに商品を出品するのは、部下に対して出品するのと一緒だと思って、意識しています。どう感じてどうやってくれるかな、といつも思って。

西川 今の子供達の自分で考える力に、さらに弾みをつけてやることですね。うまく、その子にあった必要なやり方で伝えていく。経営者にそういう並大抵ではない努力があるからこそ、きちっとできる人たちが育っていくんだと思う。たとえば僕らでも、農家の人たちの作る姿や、畑について知ることで、そのイメージが出来あがるし、何かその瞬間に感じられるものがあり、それが弾みになる。消費者にも、「食育」を通じてそれを伝えていく必要があると思う。

高坂 「地産地消」とは結局、知ること。その人を深く知るからこそ、その人の作ったものを食べたくなるんだし、それを「大切に思う」ことが食育なんです。

 


 

小山進

小山 進
パティシエ エス コヤマ オーナー【パティシエ エス コヤマ
三田市郊外のウッディータウンにオープンした初の店舗「パティシエ エス・コヤマ」は、オープン当初から"連日行列のできるパティスリー"として関西全域で大きな話題を呼び、マスコミにも多数取り上げられる。 テレビ番組「TVチャンピオンケーキ職人選手権大会」で通算3度の優勝。

西川功晃

西川 功晃
神戸ブランジェリーコム・シノワ シェフ 【ブランジェリーコム・シノワ
20歳から4年間広島アンデルセンでパン職人として修業後、東京の洋菓子店での数年間の洋菓子修業を経て、東京、芦屋の「ビゴの店」で再びパンの修業を始める。1996年神戸でフランス料理を軸に新しいショップ展開をするブランジェリーコムシノアを開店、 1999年ブランジェリーコムシノア&オネストカフェを開店する。料理とパンが融合したメニューで「食のトータル提案」を実現している。